そだち そだてる いちはら
くらす はたらく いちはら

食の温もりでいちはらを彩る

山内 恵子さん
取材日 2025年3月5日/文・写真 Akari Tada
カフェ経営、子ども食堂の運営、女性支援団体の設立と、多岐にわたる活動を展開している山内恵子さん。生まれ育った市原市で食を通じてたくさんの縁をつなぎ、さらに女性が活躍していけるまちをつくるべく奔走する山内さんの歩みをご紹介します。
きまぐれカフェclover山内 恵子/Keiko Yamauchi
年齢 38歳
移住時期 生まれた時から市原市
居住エリア 五井地区
プロフィールデータプロフィールデータ

自分の道を切り拓く決断

山内さんは市原市で生まれ育ち、高校卒業後は調理師の専門学校へ進学しました。卒業後は市原市内の病院に就職し、病院食の調理を担当。刻み食やカロリー制限食など多様な食事を提供する中で、食の重要性を肌で感じていました。

しかし、妊娠をきっかけに職場に居づらさを感じて退職。子育てに一段落ついた頃、社会復帰を試みますが、「小さい子供がいる」というだけでなかなか受け入れてもらえない現実に直面します。そんな状況を前に、山内さんは「ならば自分でやってしまおう!」と決意。この一歩が、彼女の多彩な地域活動の始まりとなりました。

きまぐれカフェclover

「公共交通機関での移動は億劫で、職場は近いのが一番!」と考えた山内さんは、自宅と店舗を兼用できる物件を探し、2012年に「きまぐれカフェclover」をオープンしました。

「料理好きの主婦が始めたキッズスペース付きのカフェ」というコンセプトは、当時としては画期的でした。「料亭のような味は出せなくても、家庭的なあたたかい空間を提供したい」という思いから、カフェは大人が集う場所というイメージが強かった時代に、あえてキッズスペースを設け、子連れでも安心して立ち寄れる場所にしたといいます。

現在では、カフェの運営だけでなく、出張でのシェアキッチンやイベント出店など活動の幅を広げており、地域の人々のつながりを大切にしながら、温かい食と居場所を提供し続けています。

シェアキッチンでディナー提供
イベント出店も全力で!

子ども食堂「Amityいちはら」

カフェ経営を行う中で、山内さんがずっと胸に秘めていた夢がありました。それは「子ども食堂」の開設です。メディアで報じられる子どもたちへの虐待や痛ましい事件を目にするたび、「そんな環境にいるくらいなら我が家で面倒見るのに」と感じていたといいます。

ある時、「子ども食堂やりたいんだよね」と周囲に思いを打ち明けたところ、賛同してくれる人々が集まり、2019年に「Amityいちはら」というボランティア団体を設立しました。当初は「普通の主婦の集まり」ということで、行政や企業からの理解を得ることに苦労しましたが、粘り強く活動を続けた結果、2020年に満を持して開催した第1回子ども食堂には200人以上の参加者が集まる大盛況となりました。

子ども食堂で提供されたメニュー
提供されるメニューは子どもたちの栄養が考えられています

しかし、その直後に新型コロナウイルスが流行。会食形式での開催が難しくなる中、山内さんたちは市内3ヶ所でのお弁当配布に切り替えて活動を継続しました。ある学校近くの文房具店でお弁当の配布を行った際には、学校の先生も立ち寄ってくれたそうです。翌日、その先生が「昨日の晩御飯何食べた?僕は子ども食堂のお弁当でした」とクラスで話すと、「僕も!」「私も!」とクラスの3分の1ほどの子どもたちが手を挙げたというエピソードは、山内さんたちの活動が確かに地域の子どもたちに届いていることを実感させる出来事でした。

コロナ禍はお弁当の提供に切り替えました

当初は「食が行き渡らない子への支援」を目的としていましたが、現在は「みんなで食べる居場所づくり」として、様々な家庭・世代の参加を受け入れています。毎月第3水曜日にお弁当の配布と会食を開催し、季節に応じたイベントも企画するなど、地域に開かれた温かい場所を提供し続けています。

女性の社会進出支援「アマゾネス」

アマゾネスのみなさん

山内さんはさらに、女性の社会進出を支援するための団体「アマゾネス」も設立しました。市原市周辺で活動する女性出展者によるイベント企画や、SDGs運動会など、多様な活動を展開しています。

活動の中で、山内さん自身も「今日お子さんはどうしているの?」「ご家族はこういう活動に何も言わないの?」などと問われることがあるといいます。「夫が子どもを見ていると答えると『すごいね』と言われるけれど、それって変な話ではないでしょうか。男性が外で飲んでいても子どもはどうしているの?とはならないのに‥」と、社会に根強く残るジェンダーバイアスに疑問を投げかけています。

女性がやりたいことを自由に追求できる社会の実現を目指し、山内さんは女性の社会進出支援と地域活性化の両立に取り組んでいます。

「ちょうどいい田舎」市原市への愛と展望

「市原市は空港や都内へのアクセスも良く、まさに『ちょうどいい田舎』です」と語る山内さん。「この市の自慢は何だろう…特別なものはないかもしれないけれど、特に不満もなく本当に居心地がいい」と、生まれ育った地元への深い愛着を示しています。

最近は隣接する市にも活動範囲を広げる中で、「他の地域は『足並みを揃える』のに対し、市原市で活動する人は『誰が一歩先をいくか』というバイタリティがすごい」と地元の特性を感じているといいます。

「これから先も市原市を離れることは考えていません」と語る山内さんは、今後も子どもたちの居場所づくりと女性の社会進出支援を軸に、女性がもっと輝けるまちや社会の実現を目指して活動を続けていきます。

山内さんの周りはいつも笑顔で溢れています

カフェ経営、子ども食堂の運営、女性支援団体の設立と、多岐にわたる活動を通して、市原市に温かい光を届ける山内恵子さん。彼女の行動力と温かな心遣いは、市原市という地域に確かな変化をもたらし続けています。山内さんの挑戦は、これからも多くの人々の支えとなり、地域社会を明るく照らしていくことでしょう。

【Instagram】きまぐれカフェclover
【Instagram】Amityいちはら
【Instagram】アマゾネス

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