

正林さんは、4歳のころに市原に移住。
高校卒業後は都内や海外で暮らしたこともありますが、人生の半分以上を市原で過ごしています。
現在は包装作家®として活動する正林さん。
封筒や紙袋、紙皿といった身近な素材で、手作りのラッピングを制作しています。
この日は紙皿を使ったエコラッピングの体験会。
体験会には、手作りや工作が好きな主婦の方も来てくださいました。
普通の紙皿が、お菓子や小物を入れるのにぴったりなケースに早変わりです。
丸いチーズの木箱からインスピレーションを得たそうです。
「どうやったら喜んでもらえるか考えているうちに、可愛くて愛着がわいてあげたくなくなっちゃうことも」と、笑顔で語ってくれました。
正林さんが手作りラッピングを始めたきっかけは、お友達に頼まれたものをラッピングして渡したら、想像以上に喜んでもらえたという経験から。
「あげる中身がわかっているはずなのに、ラッピングに心を込めたらとても喜んでくれました。自分の手で人を喜ばせることができたのが嬉しくて、包む楽しさにどんどんはまっていきました」とのこと。

小さいころからお菓子作りや工作が好きだったという正林さん。
都内の看護学校を卒業してから看護師として働いていましたが、海外への憧れからロンドンに留学をします。
「留学先でもつい日本人の友達と一緒にいてしまい、思ったような成果が出ませんでした。何も習得しないままでは日本に帰れない、と思い進路相談所へ行ったところ、フランスの有名なお菓子学校≪ル・コルドン・ブルー≫を紹介されて入学することにしました」
相談所から帰るバスの中で学校のパンフレットを眺めていたところ、通路の向かいに座っていた日本人のマダムから「お待ちしています」と声を掛けてもらったとのこと。
なんとその人は、ル・コルドン・ブルーで働いている方だったんだとか。
「不思議な縁もあるものだ、これは入学するしかない」と思って入学を決めたそうです。
ロンドンで製菓と料理を学び、日本に帰ってきてからは資格を取るために助産師学校へ通いました。
助産師として働いていたものの、「今度は本場のフランスで学びたい」という思いに駆られます。
「次はフランスに行こうと約束していた友達が、一緒に行けなくなってしまいました。でもどうしても行きたくて、私はひとりでフランスへ渡ることにしました」

フランスで1年暮らしたのちに市原へ戻り、学んだ技術を忘れないように、仕事が休みの日にお菓子を焼いていました。
でも、目的がなくただの練習ではなかなか気持ちが入らず悩んでいました。
そんなある日のことです。
五井病院に健康診断を受けに行きました。
そこで保健師として働いている看護学校の先輩と再会したのです。
正林さんはとても驚きました。
なぜならその先輩は北海道出身で学校は都内だったので、市原にいるはずがない方だったからです。
なんでも、ご主人の転勤で市原に引っ越してきたとのことでした。
しかも先輩は毎日働いているわけではなく、たまたまその日だったから会うことができたのです。
「この偶然にも意味があると感じて、ずっとやりたかったカフェを私の自宅で月1回始めることになりました。友人に声を掛け、初回のお客様は1名でスタートしました」
カフェでは生菓子を、持ち帰り用に焼き菓子を作りました。エコラッピングは、この焼き菓子を包むことから本格的に始めたそうです。


「カフェのお客さんは徐々に増え、10人以上来てくださるようになりました。忙しくなってきたため、以前通っていたコーノ式コーヒー塾の先輩である木更津の「かなざわ珈琲」さんにダメもとで相談しました。すると快く引き受けてくださり、3人でカフェをやっていくことになりました」と正林さんは語ります。
当時金澤さんは、大和書房でコーヒーの本を制作中でした。
金澤さんはある日、カフェのおみやげ用の焼き菓子を編集部へ差し入れとして持って行ってくれました。
編集部の方がその時に焼き菓子の包みを見て、「このラッピングかわいい!」と興味を持ってくださったそうです。
後日カフェに遊びに来てくれて、「企画書を出します。通ったら本を作りましょう」ということになり、思ってもみなかった自分の本を出版できる幸運に恵まれました。
「かわいく包みたい」というシンプルな想いで始めたラッピングが、ご縁を繋いでくれました。
「ものごとが進むときは自然に進む。実際に行動に移すことで何かが動き出す。初めの一歩を踏み出すきっかけは勇気や勢いではなく、自分の心の中にある純粋な想いなんだと思います」と、正林さんは語ってくれました。


「市原は歴史のある街で、レトロな小湊鐡道も大好きです」とのこと。
「並走するだけでも幸せな気持ちになるし、時代を超えた旅行気分を味わえる。昔は魅力的に思えなかったけれど、今はこの素敵な姿を変えてほしくないと思います」
古くて可愛いものが好きな正林さんにとって、五井の古き良き街並みや商店街も存続してほしい大切な風景です。

都内に住んでいたこともある正林さん。
「東京と比べると暮らしはのびのびとゆとりがあって豊かだし、直売所の野菜や果物が新鮮で安くてとても嬉しいです」と教えてくれました。
「フルーツ農園で梨の受粉などのアルバイトをしたこともあります。いちご農園では一区画をもう七年借りていて、毎年シーズンになると美味しいいちごが食べ放題です」とのこと。
いちじくのシーズンは大人気となる直売所もあるそう。
「市原と聞いたときに、工場やゴルフ場というイメージしか浮かばない人も多いかもしれません。でも、農産物は豊かだし、東京にも千葉の各地にもどこにでも行きやすい。まだあまり全国区で知られていない分、今が狙い目かもしれません」と笑顔で語ってくれました。

また、「市原は富士塚がとても多く、これから回ってみたいところもたくさんある」とのこと。
長い歴史と共に生きる市原で、正林さんのレトロな楽しみ方はまだまだ広がっていきそうです。