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縁庵 表千家茶道教室

縁庵 / 中村 和代さん
2026年1月19日 / 文・写真 Chisato Aoyagi
2026年、市原市五井にオープンした茶室「縁庵」。 競争の多い時代にこそ見つめたい「和の心」を伝える中村宗和さんに、茶道の魅力と想いを伺いました。

人と比べない“茶の世界”で

小湊鐡道の線路が見える一角。
住宅街の路地の奥に、茶室「縁庵」はあります。

木を切ってかんなで削る……
昔ながらのやり方で建てられた新しい茶室は、地元の宮崎工務店さんによるものとのことです。

今では大工さんでできる人も少なくなったという和風建築です。

こちらの茶室で表千家の茶道の世界を伝えているのが、中村宗和さん。
「若い人、小さい子どもにこそ、和の世界を知ってほしい。今の時代にこそ、他人を思いやる茶道の精神が生きてくると思います」と話してくれました。

「茶室に入ったら、向き合うのは自分だけです。誰かと比べる必要はない。そういう時間と空間があることを、次の世代に繋いでいきたいです」
一服の美味しいお茶を集中して点てる。
茶室で大切なのは、このたったひとつです。

茶の湯の世界はいろいろと細かい作法がありますが、それらは「自分よりも相手を優先させる」という思いやりの表れなのだそうです。
「作法のすべてには理屈があって、上辺と流れだけを知っておけばよいというわけではありません」と、中村さんは優しく話してくださいました。

お抹茶は必ず和菓子と一緒にいただきます。
お客様としての作法も学びが必要です。

「嫌なことがあっても、静かな空間で集中することで心を洗うことができます。すぐにあれこれ出来るようになるわけではないけれど、コツコツやっていれば1年前の自分より成長していることが感じられるはずです。お茶の世界で比べるのは他の誰かではなく、いつでも自分だけです」
自分と向き合う空間は、忙しい現代にこそ必要なのかもしれません。

茶道と歩んだ25年

中村さんは、3年ほど前から公民館で茶道の稽古を行っていました。
茶道を始めるきっかけから、人に教えるようになるまでの歩みを伺いました。

「始まりは、大きな想いやきっかけがあったわけではないのです」と、中村さんは話してくれました。
「20代のころ、近所に茶道の先生が住んでいてご自分の茶室を持っていました。その方がとても品があって、所作も美しい人でした。お教室をやっていると聞いて、この人の元で習ってみたいと思ったのがきっかけです」
当時は交通の便も良くないし、習い事をするなら近場が良い、と思ったとのこと。
地元の人が集まる小さな教室で、中村さんは茶道のお稽古を始めることになります。

「お茶をもともと知っていたわけではなかったけれど、始めてからお茶の魅力にどんどん惹かれていきました。静かな空間で、先生のお点前を見て覚えてやってみる、という感じでした」

柄杓の持ち方などピンポイントの部分は先生が教えてくれるけれど、ほとんどは先輩や先生の所作を見て覚えたそうです。

その後、先生が市原を離れたことで教室は閉鎖。
中村さん自身も子育てと仕事で忙しくなり、しばらく茶道から離れた生活になります。
茶道を再開するきっかけは、子育てがひと段落したころに通い始めたお料理教室だったそうです。

「お料理教室の先生は60歳で退職されて、そこから茶道を習い始めたと聞きました。60歳から新しいことを始めようとする先生を見てすごいなと思いました。話の流れから、教室で懐石料理を作りながらお茶を楽しみましょうということになりました。自分はもう長いこと茶道から離れてしまったから今さら戻るのもどうだろうと思っていたけれど、それが引き金になってもう一度お茶をやりたい、と思いました」
そこで師としてついたのが、市原市に住む宗匠の男性だったそうです。
中村さんはそこで、人に茶道を教えることが可能になる「盆点」「講師」の免状を取得します。

「お稽古はとにかく厳しかったけれど、先生の持つ素晴らしい技を自分でも身につけたかった。お茶に関しては妥協を絶対にしない、知識も技もこの人の他にはいないだろうという先生だったのです。だからもどかしい想いをしても、自分の成長のために稽古を続けてきました」

中村さんが「人に教えてみよう」と思ったのは、宗匠からの言葉がきっかけだったそうです。
「『習いに来てばかりじゃ上手くならない。上手の早道は人に教えることだ』とおっしゃったんです。そこで、私も1人でも2人でも良いから教えてみようかな、という気持ちが湧いてきました」

「自分の学んだことを誰かに伝えるというのは、易しいことではないです」と中村さんは話します。

「自分の成長のためと思って教え始めたけれど、人の成長に関われるのは嬉しい。だからもともと教えたかったというよりは、後々になってそういう気持ちが自分の中に湧いてきたという感じです」
中村さんの生徒さんには、小学生もいるとのこと。
「私は生徒さんに恵まれたと思います。一生懸命やっている姿は尊敬できるし、引っ張ってもらっているとも感じます」

茶室でのお作法は茶を点てるだけでなく、袱紗のさばき方や畳の歩き方など、入った瞬間から始まります。
制限のある公民館ではなく自分の茶室を持つことで、中村さんは自分が学んだ茶の湯の世界を次の世代に伝えています。

市原という街について

中村さんはもともとは館山がご出身で、そこから県外や県内他市での生活も経験されています。
そんな中村さんに、市原の魅力を伺いました。
「住みやすいと思います。田舎で不便すぎることもなく、都会みたいにごちゃごちゃしていることもない。子育てもしやすいし、生活における不満はないですね」

また、「市原は明るいと思います」とも話してくださいました。
「山がなくアップダウンも少なくて、どこも開けていて空が広い。そのせいか人も明るい人が多いような気がします。海も近いし、工場地帯があるから夜も明るい。一言で市原をあらわすなら、『明るい』につきると思いますね」

待合からの景色。客はここで鐘の合図を待つそうです。

「これから木々や草花を育てていきます」と中村さん。
茶室の外も中も一体となって、茶の湯の魅力を伝えていく場所になるそうです。

お茶やお稽古を体験してみたい人は、「ご都合に合わせて体験日を設定しますので、個別にお申し込みください」とのこと。
「お稽古は小学生から始められます。敷居が高く見える茶道ですが、発表会や遠征もないので実はリーズナブルな習い事ですよ」と、中村さんは話してくださいました。

この日の棗(なつめ)はお雛様の蒔絵(まきえ)でした。

「お茶の世界は季節を大切にします。それを感じるだけでも良いくらい。難しいものではないのです」
市原で、季節の移ろいを感じながら静かな時間を過ごす。
そんな豊かな世界へ、一歩を踏み入れてみませんか?

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